共感しかない~『語学の天才まで1億光年』

2023/12/1 Fri

あの時あの場所で

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高野秀行著『語学の天才まで1億光年』を読んだ.

語学の天才まで1億光年

著者はノンフィクションライター.
早大探検部出身だけあって,ただの旅ではなく誰も行かない国や地域(いわゆる辺境)にて,珍しい経験や調査をすることをテーマとしている.
全著作を読んでいるわけではないものの,いわゆる冒険家や極地探検家とは異なるアプローチで,Kazchariの知的好奇心を満たしてくれる作家さんである.

高野さんは1966年生まれ.
Kazchariと1歳違いである.
しかも1992年から93年にかけ,チェンマイ大学で日本語を教えていたという.
ちょうど,その頃にKazchariもタイを中心に東南アジアをあちこち放浪していた.ひょっとしたらどこかですれ違っていたかも.

高野さんの著作では,なんと言っても『謎の独立国家ソマリランド』が有名.
数多くの賞を受賞してる.

謎の独立国家ソマリランド

いわゆる未承認国家への訪問記.読み応えある大作で面白いことは面白いのだが,国が国だけに単独行とはならず通訳やら護衛兵同行.過去作に比べるとちゃんとしすぎ.つまり高野成分少な目で物足りなかった(すいません).

危険な国への潜入探検モノだと『アヘン王国潜入記』が超好み.

【カラー版】アヘン王国潜入記 (集英社文庫)

いくら国外とは言え,その目的も行動もかなりヤバい.

ちなみに個人的に最高傑作だと思うのが『怪魚ウモッカ格闘記』である.
これ超一流のミステリー小説では?(高野初読者には決しておすすめしません).

【カラー版】怪魚ウモッカ格闘記 インドへの道

さて,今回の『語学の天才まで1億光年』は,そんな世界の辺境を旅するために学んだ数々の言語の習得方法の実録記である.

本書に登場する言語は以下の通り.

フランス語,リンガラ語,ボミタバ語,イタリア語,スペイン語,ポルトガル語,タイ語,ビルマ語,シャン語,中国語,ビルマ語,ワ語

確かにこれだけ話せれば,地球上どこに行っても大丈夫(一部極地言語も混ざっているけど).いや,ロシア語も必要か.

本書はそれぞれの言語を学ぶに至った経緯や,過去の著作の補助ストーリーが追加されている.高野ファンにとっては懐かしくもあり,楽しい構成である.

エピローグに記してあるが,今も筆者の言語学習スタイルは変わっていないそうだ.曰く...

・誰でもいいからネイティブに習う
・使う表現から覚える(目的に特化した学習)
・実際に現地で使ってウケる(現地にいるとき即興で習うことも多々あり)
・目的を果たすと,学習を終え,速やかに忘れる(ひじょうに残念であるが)

まさにそう.

Kazchariが知人に「海外旅行,楽しいでぇ」と言うと「私,英語できないから無理です」という返事が多いが,これは大きな間違い.

確かに共通語としての英語は便利だが,町中に出れば英語が全く通じない国は多い.
いや,町中どころかチリの空港のインフォメーションで「habla ingles?(英語話せますか?)」と尋ねたら,「no!」の一言で逃げられた経験もある.

それに英語が公用語じゃない国で,英語だけで通すとホテルやらガイド,観光客相手の店でしかコミュニケーションがとれない.
これは実にもったいない.

Kazchariも高野さんほどではないが,新しい国を訪れるごとに,なるべくその国のローカル言語を覚えて実践してきた.
と言っても,せいぜい挨拶と数字,「ありがとう」「~はどこですか?」「いくらですか?」程度だが.
少し慣れてくると辞書に載っていないようなスラング,特に卑猥な言葉を教えてもらった.これが若者にウケる(当時はKazchariも若者だった...).

そう,高野さんも書いているけど,語学教室や教科書で習う言葉と,実際に現地の人が使っている言葉はかなり異なる.
日本語もそう.
本書内にて中国人の先生が例文をあげている.

教科書 ⇒ 「大きいものを取ってください」
実際  ⇒ 「ねぇ,あのでっかいやつ,取って」

これが「本当のネイティブの言葉」
確かにその通り.
それに文法や発音が正しいだけでなく,大きさやトーン,スピードも合わせないと決してネイティブ(風)にはならない.ようするに「ノリ」が大事.

どの言語にもこうした要素はあるのだろう.
うーん,基礎はともかく,生きた言葉を習得するには,やっぱり現地にいないとあかんな.

Kazchariの場合,英語を除くとマレー/インドネシア語スペイン語をよく話した,いや使った.
やはりアルファベット表記で発音が簡単な言語は覚えやすい.

タイの滞在期間が長かったので,声調地獄のタイ語もがんばった.
お隣のラオスカンボジア(僧侶限定)で通じた時はうれしかったなぁ.

あれ? かつて2年間,がっつりひたったはずのジャマイカ英語は?
うーん...ついぞ満足いく域に達することはなかった.

事前に本書の指摘に気づき,真面目に取り組んでいたら,もう少し上達し,ジャマイカに溶け込むことができたろうに...すべては後の祭りである.

旅の指さし会話帳53 ジャマイカ(パトワ語・ジャマイカ英語)

高野さんの旅の原点と言えば,早大探検部時代の一大プロジェクトを記録した『幻獣ムベンベを追え』に詳しい.

幻獣ムベンベを追え

今回初めて知ったのだが,高野さんはコンゴ旅行の前に初の海外旅行としてインドに渡っている.
これまた,ほぼ同時期にKazchariもインドを旅している.
つまり見てきたこと,感じたことがかなり近い.
読んでいて共感しかなかった.

最も印象的なのはパスポート盗難事件のくだり.
恥ずかしい話だが,実はKazchariもこの被害にあったことがある.

1993年10月.タイのチェンライにて,同じ宿をシェアした“自称”イタリア人に睡眠薬をもられてパスポート,T/C,現金,航空チケット,カメラ全部やられた.

その後の警察とのやり取りは,もちろん英語.
必死になると自分でも驚くくらい流暢に話せたなぁ...って,どうでもええわ!

バンコクに戻って日本大使館に出向き渡航書を発行してもらい,帰りのチケットも航空会社のカウンターでゴネにゴネて再発行get.

そして飛行機に乗るまでの数日間,何もかも失ったKazchariは,国籍問わずホンマいろんな人に助けられた(助けを求めたせいもあるが).

翌年,その際にお世話になった人々へのお礼および,もし事件に遭わなければ次に行く予定だったミャンマーを訪れたのは,理不尽に旅を中断させられたことへの怒りだったのかもしれん(我ながら負けん気強すぎやろ).

ただ,後年考えるに,あの時パスポートを盗まれ,一年近くに及んでいた旅が強制終了させられたのは幸運だったかもしれん.
もしあのままダラダラ続けていたら,少なくとも今の生活はない.
きっとどこかの国で「沈没」し続けていただろう.
それはそれで楽しい? わからん.それはマルチバースの話.

高野さんの場合,どういう事情だったのかパスポートと航空券は戻ってきたようだが,そんな奇跡が起きることもあんねんなぁ...

つーことで,高野さんには到底かなわないものの,なるべく現地の言葉を話そうとしていたKazchariには実に刺さる本でした.

そして2023年現在.
4カ月後には久々の海外旅行が控えている.
あの頃のように,ちょっと言葉を勉強してみようかなぁ.

語学学習/ 説出好中文 台湾版 ペラペラ中国語

もう(不安もふくめて)楽しみしかない.

ヴェトナム,ダラットの本屋にて 1993年5月撮影

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