沢木耕太郎『一号線を北上せよ』を読んだ~そして1993年へ

2022/2/20 Sun

旅に復讐されるかも.

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このブログを初めた頃,旅の回顧録~1993年のカンボジアというテーマの連載(?)をしていた.

これは,1993年の1月から10月にかけて行った東南アジア旅の記録で,当時の日記を元にして書いた.
そのオリジナルは,今はなき「Nifty Serve」のミステリー小説スレッドにアップしていた文章.

当時のカンボジアは長らく続いた内戦が終了し,通常選挙がようやく行われるなどなかなかの混乱具合.
選管ボランティアの日本人青年が殺害されるなどの事件もあった.

国中あちこちに地雷が埋まっており,観光するのも命がけ.
夜間には銃声.
今思うに,よくふらふらと出歩いてたもんだ.

人類史上最大の愚行の一つ「カンボジア大虐殺」に関しては,この映画のアプローチがすごい.

消えた画 クメール・ルージュの真実

こうした世界の負の側面を目の当たりにするなど,20代にああした行きあたりばったりの旅をしたことは,今の人生に大いに役立っていると思う.
この後,結局長年の夢だった協力隊への参加も実現できたしな.

この『1993年のカンボジア』は国境を越えて,ヴェトナムに入国したところで終わっている.

もちろんその後も旅は続いた.

サイゴン(ホーチミン・シティ)から,バスや列車を乗り継いでハノイまで6週間かけて北上.
カンボジアほどのインパクトはなかったけど,これまたエキサイティングな経験だった.

Kazchariが初めて海外に渡ったのはいわゆる卒業旅行.
1989年のケニア-インドーネパール旅だった.
この時の期間は1ヶ月ほど.
全てが新鮮そして強烈だったが,所詮短すぎた.

そして就職.
その会社を辞め,帰国日を決めない無期限旅行を決意させたのは2冊の本がきっかけである.

一冊は蔵前仁一の『ゴーゴー・アジア』.

新ゴーゴー・アジア(上巻)

もちろん,前作の『ゴーゴー・インド』も読了済み.
蔵前の一連の著作のおかげで,世の中にはこんなに楽しい旅の仕方があるのだと知った.

もう一冊は,より人口に膾炙する名著,沢木耕太郎の『深夜特急』である.

深夜特急(1~6)合本版(新潮文庫)【増補新版】

いまさら解説しようがない.
この本のおかげで,何万,何十万の若者が旅立ってしまったことやら...
有名な話だが,第1便,第2便(文庫版では1~4巻)と第3便の間には,6年間の刊行ブランクがある.
東南アジアやらインドが含まれる1,2便の方が旅のネタには事欠かないはずなのだが,Kazchariは第3便のヨーロッパ編が一番おもしろかった.
作者自身の文章力の向上ゆえかな(なぜ上から?).

大沢たかおのTVドラマも話題になった(VHSで保存している).
松嶋菜々子の登場にはズっこけたが.

さて,沢木耕太郎である.
その最大の魅力は,もう沢木節としか言えない独特の格調高い文体にある.
特に,ボクシングというスポーツを,ここまで詩的に昇華させた作家はなかなかいないのでは?

その影響力は凄まじく,一時スポーツライターをやってた”五体不満足”な人も,その文体をマネしていた記憶がある.

沢木の著作はかなりの数を読んでいるが,今回図書館でたまたま手にとったのがこちら.

一号線を北上せよ~ヴェトナム街道編 (講談社文庫)

珍しく未読だった.
文庫版の表紙には「ヴェトナム街道編」と書かれているが,単行本にはそのような表記はない.
「一号線」「北上」と聞いて,すぐに「あっヴェトナムのことだ」とわかるのはパッカーのみであろう.

内容は沢木のプライベートと取材旅行記であるが,ヴェトナムだけでなく,「キャパのパリ」「フォアマンのアメリカ」「檀一雄のポルトガル」「アルペンスキーのアルプス」「酒場のマラガ」(Kazchari命名)も含まれた短編集である.
Kazchariはポルトガルとスペインも訪れたことがあるので,懐かしく,楽しく読ませてもらったが,やはり白眉はヴェトナム編の2本である.

奥付をみると,2000年あたりの旅のようだ.
Kazchariは1993年の訪問だったので,若干のズレがある.

一見して,旅のシステムがかなり整ったようだ.
当時のタイと同程度か.
沢木の旅からさらに20年近く経った今では,どうなっているのやら...
Wifiも当たり前やろうしな.
そういや,ここしばらく,ヴェトナムってかわいい小物だとかグルメやらで,女性にも人気の旅先だった.
新コロが全てを破壊したけど..

ここで思いついた.

『旅の回顧録~1993年のカンボジア』の続き,つまり『1993年のヴェトナム』をリライトしようと.
まぁ,30年近く前の旅行記に何の情報的価値もないが,しょせんブログなんて単なる個人の歴史.
SNSではないので,即時性とか気にするものでもない.

ただし,本書『一号線~』にこんな記述がある.

「旅は繰り返すものではないし,繰り返せるものでもない.それを知りながら旅をなぞろうとすると必ず手痛いしっぺ返しを受ける.旅に復讐される,といってもいい.」

実際に再訪するのでもなく,文章で追憶するのも同様なのだろうか?
当時の日記を読むと,どうしようもなく,あの頃(の自分)に帰りたくなることがある.
でも,同じ瞬間は,もう二度と起こり得ない.
全ては過去.もう取り戻せない.

そう,『ブレードランナー』のレプリカント,ロイの最後のセリフのような心境になる.

一方で,沢木はこうも書く.

「旅先で覚えたその痛切な思いは,決して消え去ることはない.私たちの体のどこかに眠っていて,必要な時に呼び覚まされることになるはずなのだ.」

いいなぁ.その通りだろう.
この文章だけでごはん3杯はいけそう.
『深夜特急』本編と比較すると,『一号線~』は”帰ってきた人向けの本”なのだろう.

とかなんとか色々それっぽいことを言ってますが,これもまた”終活”の一貫として,『旅の回顧録~1993年のヴェトナム』,近日スタート!
全く需要はないだろうけど,それでいいのだ.

以下,余談.

Kazchari家では『水曜どうでしょう』の何度目かの再放送を夕食時に視聴している.
ちょうど今放送中なのが「原付日本列島制覇」という回で,東京から高知までカブで向かうという企画.
2010年の放送なのだが,鎌倉付近を通過する際,大泉がカメラに向かって「いざ!鎌倉!」と吠えるシーンに震えた.
まるで,未来を予言したかのようなセリフ.

ご存知の通り『水どう』は2002年にレギュラー放送を終えるのだが,その最後の旅がカブによるベトナム縦断1800キロなのだ.
正に一号線を北上...ではなくハノイ発で南下する旅やけどな.

またしてもシンクロニシティ発動?

Kazchari的に,今ヴェトナムが熱い!

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