2021/3/22 Mon
永遠に交わらないけど離れない.
Amazonのサイトからあらすじを引用.
アニメ『エヴァンゲリオン』シリーズで社会現象を巻き起こし,実写映画『シン・ゴジラ』の大ヒットも記憶に新しい庵野秀明が,2000年に監督した名作.本映画の原作者でもある女優・藤谷文子と,日本を代表する映画監督・岩井俊二の二人を主演に据えて描いた繊細で斬新な異色ドラマ.映画監督として成功をおさめたものの,創作意欲を無くしてしまった男が,“明日は,私の誕生日なの”と言い,奇妙な儀式をする女に出会う.女は今日も翌日も同じ言葉を繰り返すが,一向に誕生日は訪れない.そんな彼女に興味を覚えた男は,彼女を被写体にビデオを回すようになるが...
と言ったお話.
『シン・エヴァ』を2回鑑賞し,そろそろ各種レビューサイトを覗くようになった.
「解釈しない,それぞれのエヴァでいいじゃないか...」という意見も散見されるが,考察することで何度でも楽しめるスルメ映画であることは間違いない.
答えの出ない問題を考え続ける,実にヒト(リリン)らしい.
そんな中,やはり興味深かったのが,岡田斗司夫のYouTube.
そして映画レビューブログで有名なこれ.
映画『式日』レビュー|庵野秀明監督のねらいと『シン・エヴァンゲリオン劇場版』と合わせて観るべき理由とは
前者の解説で気になったのは「儀式」というキーワード.
第三者には全く意味がわからないが,当事者にとっては必要な手順.それが儀式.
合理的理由はない.
『シン・エヴァ』でそれが顕著なのが,裏宇宙に入ってからのゲンドウとシンジの対決.
初号機と13号機のタイマンシーンが全てセット(虚構)なのは,アディショナルインパクトのための受胎・受肉を表現する宗教儀式的な位置づけという解釈が面白かった.
後者のブログは中身を読む前に『シン・エヴァ』と庵野監督の実写映画に関連が...というサムネに惹かれて視聴に至った次第.
で,2時間経過.
岩井俊二主演というだけでなく,映画自体も岩井俊二っぽかった.
つまりアート.
ひたすら長く感じました.
※ 以下ネタバレ.
シーンごとに「〇日前,〇日目」とカウントダウン表示がある.
これが最終日に何が起こるのか,という緊張感を生む.
結局,大したことは起きないのだが.
名前のない二人.
ただし彼氏は彼女から「カントク」と呼ばれている(モロに投影).
良かった点としては,『シン・エヴァ』後に観たこと.これに尽きる.
今や聖地化しているらしい宇部新川駅周辺でのロケなのだろうか?
駅前広場が映っていないか探してしまった.
20年前とは町の様子は変化しているけど,あの開閉式アーケード(シャッター)商店街も残っているのだろうか?
彼女の線路に横たわる登場シーンから始まって,全編電車の停車場が印象的.
特に『シン・エヴァ』では何枚目かのキービジュアルポスター,第三村,親子対話シーンなど線路,電車を用いた図柄が多い.
なぜ線路が好きなのか?というカントクの問いに対し,
「自分で行き先を選ばなくてもいい」
「2本で1つ」
そして,
「永遠に交わらないけど離れない」
という彼女の答えがいい(そのままではなく意訳).
延々とヒトとヒトとのコミュニケーションをテーマにしている『エヴァ』に通じるテーマやね.
後はあれか,あちこちに散らばる“エヴァっぽい”ビジュアル.
電柱,電線,工場,配管はもちろんのこと,同じモノが延々と並ぶ構図.キューブリックばりのシンメトリカルな構図.
そして「赤」.
水漏れしまくってる地下室なんて赤い傘でコア化してるし,丁寧にアダムもとい祭壇まである.
どう見てもセントラルドグマ.
そしてご丁寧に彼女がくるまる,胎内回帰専用白いバスタブまで(アスカ~!)
「長すぎる」という点はおいといて(アートなので),いまだと「メンヘラ」「ボーダー」「境界型」「かまってちゃん」などとくくられてしまうヒロインの造形.
いわゆる毒親(まさかの大竹しのぶ)による影響が示唆.
元々はヒロイン,藤谷文子(ガメラ~!)自身の私小説(?)が原作.
父親はあの沈黙のスティーブン・セガールで,両親は離婚している.
2000年だと,こうした方々への認識って,まだ世間に浸透していなかったっけ?
プライベートではなく,仕事上で何人かの“患者さん”に会ったことがある.
ここで詳しく書けないが,みなさん共通点というか雰囲気が似ている.
で,問題は,その母親との対決シーン(家族カウンセリング).
うーん,アレでええの?
TV版エヴァの最終二話を五倍くらい水で薄めた感じ.
それまでのアニメっぽい演出で幻覚・妄想を描いたり,謎の家族構成,不安を掻き立てる不気味な構図でさんざん煽ってきたのに,あの話し合いで,“とりあえず”昇華されてしまったことに拍子抜け.
特に「姉」って彼女の分裂体やんな.たぶん.
『エヴァ』では父と息子,『式日』は母と娘.
現実的には,こじれにこじれた親子関係が和解することは難しく,強いてあげるなら片方の肉体的,精神的,社会的死によって,二度と会わないとわかってからの“和解できた(ことにしておく)”でまとまることが多いように思う.
まっ,そこは重要なテーマではないのか.
いずれにせよ,カントクのド直球な告白を経て,ヒロインは部屋のカーテンを開け,自分の本当の誕生日を見つけ,リアルを意識した時点で映画は終わる.
『式日』は『エヴァ』,特にTV版,旧劇までの庵野監督の表現方法と類似している.
自分が壊れないように「虚構」に逃げ込むもよし.
ただし「虚構」は「虚構」であり,それが必要な場合もあるため(儀式),完全否定するわけではないが,地に足を付け現実も生きていけというメッセージが,落としどころとなっている.
先ほどの映画レビューブログの方では「ヒロイン=エヴァファン」という考察をあげている.
そう,我々は常に「大人になれ」と言われ続けているのに「虚構」大好きなのだ.
「虚構」こそ,リリンが生み出した文化の極みだよ.
つーことで,内容はアレですが,構図はアート.
元気な時にどうぞ.
庵野実写作品は他にも『ラブ&ポップ』『キューティハニー』があるが未見.
もう少しおいとこ.
早く『シン・ウルトラマン』公開せーへんかな.