2022/2/3 Thu
フリをしているフリをする
著作が出版されれば,必ず読む作家が2名いる.
一人は言わずもがなの森博嗣.
もう一人が橘玲(たちばな あきら)である.
この二人は毎回,Kazchariに知的興奮を与えてくれる.
先日,その橘氏の『スピリチュアルズ「わたし」の謎』を読んだ.
氏の著作を初めて読んだのは10年少し前だったかな.
老後の資産形成を見据え,投資を考え始めた頃だった.
そのおかげで,インデックス長期分散投資の有利性を理解し,そして「PT」という存在を知った.
世間には,定住地を持たずタックスヘブンに資産を預け,諸外国を転々とする「永遠の旅人(Permanent Traveler;PT)」がいるらしい.
元来の旅人気質で状況が許すなら10年でも20年でも旅し続けたいと考えているKazchariには憧れの存在(?)だった.
最近は,国家間における金融取引の情報交換が厳密になり,合法的な節税がほぼ不可能になったらしいが,それならばと,昨今では早期リタイヤたるFIRE信仰が大流行している.
やはり労働嫌いっつーか,徹底的に好きなことだけしたい人間はどの時代も一定数いるねんなぁ.
その後も,人的資本の大切さを解説する『専業主婦は2億円損をする』や,最新の知見に基づく遺伝の影響を赤裸々に綴った『言ってはいけない』などの発表で,炎上騒ぎを起こしている(あくまで一部界隈だけだが).
さて,今回読んだ『スピリチュアルズ「わたし」の謎』は,書名だけ聞くと”あっち系”っぽく,少々胡散臭いが,中身はヒトの“性格”を科学的に論述した書籍である.
例によって,世間にはびこる有象無象の自己啓発本とは一線を画した内容.
以下,簡単に概要を紹介.
パーソナリティ心理学における「ビッグファイブ(主要五因子)」をベースに,ヒトの性格を①「外向的/内向的」②「楽観的/悲観的」③「同調性」④「共感力」⑤「堅実性」⑥「経験への開放性」の要素に還元.さらに⑦「知能」と⑧「外見」を加え,計8因子で紐解いていく.
その分析は3つの原則に基づいている.
(1) こころは脳の活動である
(2) こころは遺伝の影響を受けている
(3) こころは進化の適応である
これらの前提を元に,本書の内容をざっくりまとめると,遺伝や脳の神経伝達物質など,個人の力ではどうにもできない要素で,ヒトの性格は形成される.
その性格傾向を無視するような(日本人が大好きな)「努力すればなんとかなる」は幻想.
「努力できる」も持って生まれた才能の1つ.
やはり,現代社会を生き抜くには「適材適所」を見つける,これにまさる行動はない.
とまぁ,一応教育関係の仕事に就いているにも関わらず,今回も“言ってはいけない=身も蓋もない理論”に同意してしまう.
さらには,Kazchari自身の性格分析にも新たな知見を発見.
それは「共感力」に関する章.
この章では,「共感力」すなわち「相手と感情を一致させる能力」について述べている.
それに「メンタライジング」という「相手の“こころ”を理解する能力」という別の要素を掛け合わせて分析している.
つまり,「共感力」が高いか低いか,「メンタライジング」が高いか低いかで四象限のグラフを作ると,次のような分類になる(そのままの図を載せるのまずいので文章で).
(1) 共高/メ高 ⇒ コミュ力が高い
(2) 共低/メ高 ⇒ サイコ
(3) 共低/メ低 ⇒ コミュ力が低い
(4) 共高/メ低 ⇒ アスペ
おお,ものすんげー納得.
Kazchariは昔から,周囲の人間に「冷めてる」だの「ヒトデナシ」だの「ノリが悪い」だの「ワタシの気持ちをわかってくれない!」と(たぶん愛情こめて)ボロカスに言われている.
「共感力に問題がある=アスペルガー症候群」という言葉が世に出てきた頃,「あぁ,Kazchariはこのタイプかなぁ」と思い,周囲に「オレ,アスペっぽいかも」と自嘲気味に話していた時もあった.
ただし違和感もあった.
アスペルガーの場合,定義上「人の気持ちがわからない」という前提があるのだが,Kazchariにそれはない.
例えば,目の前の人が泣いている場合,事情を知れば「なぜ泣いているのか」は理解できる.
そこに至った過程,感情の推移,表情などのノンバーバルな情報,脳科学的知識で分析し「泣いている理由」は理解できる.
ただし,それと「共感」は別.
「そこまで泣かんでもええのに...」とついつい思ってしまう.
それがこの本の解説で目からウロコドロップ.
言われてみれば当然なのだが,「理解」と「共感」は別モノなのである.
これでKazchariも今日から立派なサイコパス!...ってこれもイメージ良くないけど.
映画『羊たちの沈黙』のおかげで,「サイコパス」という言葉に「異常犯罪者」や「連続快楽殺人者」といったレッテルが貼られてしまった.
しかし,なんでもかんでも相手の気持ちに「共感」しまくっていたら,ヒトは合理的に効率的に,そして道徳的に行動できない.
リストラを断行する経営者,死地に赴くよう命令する将官,成功率の低い手術をする外科医.
あくまで結果が伴うという条件付きだが,社会的成功者には「サイコパス」が多いという.
岡田斗司夫も「自分はサイコパス」と言いまくって,宣伝文句にしてるしな.
橘玲は述べる.
「サイコは“障害”ではなく,男のごくふつうのパーソナリティ」.
程度の問題に過ぎない.
物事を「冷たい認知」つまりメンタライジングで観察することで,今何をすべきか,言うべきかが判れば,つまり演技すれば社会生活に問題はない.
フリのフリを最後まで貫けば,それはホンモノとなる(かもしれない).
つーことで,やはり面白い橘玲の『スピリチュアルズ「わたし」の謎』,超絶にオススメです.