2022/3/9 Wed
リアリティと娯楽.
こういう時こそフィクション.
ロシア映画『ロシアン・スナイパー』に続きAmazon Prime Videoにて戦争映画を鑑賞中.
まずはオランダ人監督ポール・バーホーベンよる『ブラックブック』.
公開時より非常に評判がよく,いつかは観たいと思っていた映画.
1944年、第二次世界大戦時ナチス・ドイツ占領下のオランダ。若く美しいユダヤ人歌手ラヘルは、ドイツ軍から解放されたオランダ南部へ家族とともに逃げようとするが、何者かの裏切りによって家族をナチスに殺されてしまう。復讐のために名前をエリスと変え、ブルネットの髪をブロンドに染め、レジスタンスに身を投じる。そしてナチス内部の情報を探るため、ナチス将校ムンツェに近づき、彼の愛人となることに成功するが…。 果たして真の裏切り者は誰なのか?すべての鍵を握る”ブラックブック”とは?
以下,ネタバレ.
ポール・バーホーベンと言えば,何をおいても『スターシップ・トゥルーパース』.
表向きはSFアクション.中身は戦争や全体主義への皮肉に満ち満ちた映画.
軍人にならなければ市民権は与えないッ!
さて,『ブラックブック』のヒロイン,ユダヤ人女性ラヘル(エリス)は何しろ強運.
彼女は銃を持って戦う兵士ではない.
女を武器にするあまりに雑なスパイ.
しかし,確実に死ぬような場面でも,機転と根性で乗り切る.
まるで異能生命体かジョースターの血統.
ようするに魅力的.
戦争映画としてはめずらしく,誰かを「絶対悪」としては描かない.
誰にでも事情がある.
難点としては,レジスタンスの作戦行動があまりに杜撰なこと.
それに裏切り,裏切られの脚本はスッキリしておらず,種明かし時もカタルシスは感じられない.
いわゆるブックエンド方式で,冒頭とラストがつながる構成なのだが,そのラストシーンが割と衝撃的.
ラヘルの安息の場は戦いの中にしかないのか?
ユダヤ人への迫害と戦後の立場逆転に関しては,やはり手塚治虫の『アドルフに告ぐ』が超傑作.
映画だと,ユダヤ人を“悪”に書くのは難しいやろな.
もう一本は『ハンターキラー 潜航せよ』.
こっちは,ハリウッドな娯楽映画(イギリス製作).
ロシア近海で1隻の米海軍原子力潜水艦が姿を消した。ジョー・グラス艦長率いる攻撃型原潜“ハンターキラー”は捜索に向かった先で、無残に沈んだロシア原潜を発見、生存者の艦長を捕虜とする。同じ頃、地上ではネイビーシールズ精鋭部隊の極秘偵察により、ロシア国内で世界を揺るがす壮大な陰謀が企てられていることが判明する。未曾有の緊急事態を回避するため、ハンターキラーには限りなく0に近い成功率の任務が下る。それは、絶対不可侵の水中兵器ひしめくロシア海域への潜航命令でもあった。グラスは任務遂行のため、シールズとタッグを組み、禁断の作戦実行を決断するが……。世界の運命は、一隻の潜水艦に託された――。
以下,ネタバレ.
一時期のウイル・スミスが地球を救いまくっていたように,最近世界(特にアメリカ)を救いまくっているのがジェラルド・バトラー.
今回の映画ではSPではなく,謎の原潜艦長.よって肉弾戦は封印.
過去に何かあったようだが,その辺りは何故かボヤかされている.
昔から「潜水艦映画に外れなし」とよく言われる.
有名どころでは『U-ボート』『K-19』『クリムゾン・タイド』『レッド・オクトーバーを追え』などなど.
ついでにKazchariは『蒼き鋼のアルペジオ』も好きだ.
サメ映画同様,もはや一つのジャンル...というほど作品数は多くないけどな.
音を頼りの隠密戦闘がたまらん.
画面から臭ってくるような閉塞感がたまらん.
圧潰寸前のギシギシ音がたまらん.
潜航シーンで身体が斜めになるSmooth Criminalなポージング.
潜水艦映画で初めて見た気がする.
さて,この『ハンターキラー』は,鉄板の潜水艦モノに地上戦=シールズ成分をまぶしている.
設定てんこ盛りの割に上映時間が長くない(122分)せいか,各登場人物の掘り下げが不足気味.
ちなみにこの映画のプロットは,どういうわけだか戦争がしたくてたまらないロシアの国防大臣が,大統領を監禁して軍を掌握.
自作自演のロシア原潜の沈没工作をアメリカの攻撃に見せかけ,米ロ開戦の口火を切ろうというまどろっこしいストーリー.
ジェラルド・バトラーの原潜アーカンソーは撃沈された友艦の調査に出向き,(内部から)破壊されたロシア原潜から艦長を救う.
一方,米軍はロシアの不穏な動きを探るため,4人のデルタフォースをロシア国内に潜入させる.
その際,偶然にもドローンで“たまたま”クーデターを目撃&録画(タイミング良すぎ).
秘匿回線を使って米国に送信し,あっという間に事情が筒抜けとなる.
爆笑もののご都合展開.
そのままシールズにはロシア大統領の保護を,アーカンソーには彼らの救出命令が下される...って,その場で思いついたかのような無茶苦茶適当な作戦.いいのかそれで?
そういえば,このジェラルド・バトラー艦長もラヘルに劣らず,相当強運の持ち主.
駆逐艦からのロケット,魚雷は直撃しないし,根拠のない信頼で敵が敵を裏切って助けてくれるし.
読める展開で安心して見ていられる(その分ハラハラ感に欠く).
ヒステリックな幹部(ゲイリー・オールドマンの無駄遣い),現場を信頼する冷静な上司と分析官,出撃前に彼女の写真を眺める死亡フラグ立てまくりの新兵...ってこいつは助かったか.
ステレオタイプなキャラだらけで意外性は皆無.
てっきり,最初に助けたロシア原潜の一人が爆破工作員でアーカンソーがヤバイことになる,と予測してたけどハズれた.
さらに大統領が女性,原潜のクルーに黒人,アジア系,女性通信士を配置しているところはポリコレ準拠か.
アクション映画としては,まずまずのデキなのだが,この映画には最大の欠点がある.
それは言語.
「洋画は字幕派」のKazchariとしては,ロシア人同士の会話が英語なのが非常に気になる.
一方で,米兵に対しては「ワタシエイゴワカリマセン」なのが変.
ここでリアリティが超絶ダウン.
場面や相手によって,ヘブライ語,オランダ語,ドイツ語,英語を使い分けていた『ブラックブック』とのギャップがスゴイ.
こうした言語へのこだわりって,映画全体を「娯楽」か「リアリティ」にするかの境目やと思う.
『ハンターキラー』は完全に前者.
さて,これを書いている3/9現在も,ロの国とウの国は戦争継続中.
テレビやYahooのトップに上がるような記事では,ロの国を非難する論調ばかりだが,Kazchariが購読しているメルマガには,別の見方を提示している.
世の中はフェイクだらけ.
思考停止と言われても仕方がないが,何が真実なのか判断できない.
おそらく,戦後も一般庶民には何が起こったのか知らされないままだろう.
数年後,この戦争をテーマに映画が作られるかもしれない.
果たしてそれは娯楽かリアリティか?
Not even justice,I want to get truth.