『THE BATMAN』を観てきた~雨と夜と

2022/3/19 Sat

名探偵バットマン.

マーベルの「スパイダーマン」シリーズ同様,様々な俳優が主役を演じ,もはやパラレルワールド(今風だとマルチバース)だらけの「バットマン」

その最新作である『THE BATMAN』を観てきた.

むかーしのアニメ版やら,ジム・キャリーやらシュワルツネッガーやらジャック・ニコルソンの顔芸シリーズはとりあえず置いておく.

大人向けというか哲学的に「正義とは何か」をテーマにした最初の作品は,やはりクリストファー・ノーランの『バットマン ビギンズ』だろう.

バットマン ビギンズ (字幕版)

「誰も観たことがない映画を作る」を信条としている監督だが,『ビギンズ』の頃はまだおとなしかった.
そして,次に登場したのが『ダークナイト』という空前絶後の大傑作.

ダークナイト (字幕版)

劇場で観た.いやいや,もう呼吸するのがしんどいほどの緊迫場面が続く.
ヒーローには悪が必要.
バットマンにその存在矛盾を突きつける映画だった.
良くも悪くも,その後のヒーロー物,少なくともDCコミック原作の映画はこれを超えるかどうかが一つの指標となった.

その『ダークナイト』の続編『ライジング』は残念ながらイマイチ(特に核兵器の扱いがまたかよ的)だった.

ダークナイト ライジング (字幕版)

ここで一旦,ノーラン+クリスチャン・ベール主演のバットマン「ダークナイト」シリーズは終了した.

そして,その後は『スーパーマンvsバットマン』という,まるで『ウルトラマンvs仮面ライダー』のような無茶な対決作品が作られる.

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ちょっとガタイがよいだけの普通の人間と,神様みたいな宇宙人を戦わせてどうする?(中身はちょっと違ったけど).

問題はこの映画が「スーパーマン」の『マン・オブ・スティール』の続編となっている点.ややこしいわ.

結局(Kazchari的には)内容イマイチで「ワンダーウーマンお披露目!」の印象しか残っていない.

で,この世界線は『ジャスティス・リーグ』につながり,『アクアマン』という傑作が生まれるわけだが...それに別路線で『JOKER』も...おっと,この話はここまでだ.

つーことで,今回の『THE BATMAN』である.

※ 以下,ネタバレ.

全くノーマークだった.
恥ずかしい話だが,ネット上での高評価を知り劇場鑑賞した次第.

もちろん事前情報なし.
鑑賞後の現在も各種レビューは見ていない.
ゆえに勘違い,誤解釈もあると思われるがご容赦(誰に?).

結局,どの世界線とも無関係の独立した映画だった.
完全新作.

既に両親は殺されており,ブルース・ウェインは謎めいた隠遁生活を送っている.
しかあし,その正体はハイテクスーツと中二病的ガジェットに身を包み,日々(主に夜間)ゴッサムシティの平和を守る...というか,悪ガキ共を懲らしめる正義マンなのだった.

それにしても警察との関係性が不思議.
普通に一緒に捜査しているけど,協力はしてない.
証拠品を持ち出したり破壊したりとやりたい放題.
モーガン警部,甘すぎませんか?
彼の正体を知っていた? そんな場面はなかったけどな.

バットマンと言えば,別世界のクモ男と違ってひたすら陰キャ.
ふたりとも似たような悲劇を体験しているけどこの違いは何?

バットマンは革マスクをかぶる際,目の回りも黒くメイクするのだが,マスクオフ後もそれがそのまま残っているかのような常に疲れた表情.
能力者や強化人間ではないので,当然ながら体中キズだらけ.
そして,これまでになく無口.

ほぼ全編が夜,もしくは雨のシーンであることも相まって,画面がずっと淀んでます.

基本構成はハードボイルドな探偵小説.
正直,バットマンを主役にする必要はなかったかも.

ハデなアクションシーンはほとんどない.
ワイヤーやら小型ボーガンのようなガジェットは使うが,基本は肉弾戦である.
ただし,なんちゃって“ガンカタ”アクションあり(銃なし).

そして殺さない.
つーか,バットスーツの防弾性がとんでもなく高い.
ショットガンの近接射撃でも平気なのだ.
犯罪者たちもなぜか顔を狙わない.
革マスク一枚なのに,と終始疑問.

バットマンと言えば,上空からのマントを広げてのシルエット落下.
今回はなんとフライングスーツを着用し,警察署から逃走.
着地に失敗するが無傷!
大事なのはリアリティだよ!(露伴談)

探偵小説ゆえの黒幕探しは2本立て.
どちらも「えっ?」という犯人ではあるが,意外性はない.
つまり推理モノとしては面白くない.

警官汚職物によくあるパターンで,あまりに単純過ぎる.
検事長が自分の生命を犠牲にしてまでも,口にしなかった相手ってそれ?
「途中で“シロ”誘導してたやん!」と,つっこんだわ.

もう一人の犯人がナゾナゾ男の「リドラー」
バットマンではJOKER同様,おなじみのヴィラン?
その昔,ジム・キャリーが演ってたキャラやな.衣装と笑い方を覚えている(『マスク』と区別がつかない).

ヒロイン=キャットウーマンが出てくるけど,何かキャラの掘り下げが浅いな.
なぜこんなに格闘戦が強い?
前半で気になったのが,市長の殺害現場からアパートまでバットマンはあのマント姿でバイクに乗っていたのだろうか.目立つで.

と,まぁイマイチな点ばかりを列挙しているが,撮影は素晴らしかったです.
考え抜かれたフレームワーク.
写真を趣味にしている身としては,大いに参考になった.

肝心なのはここから.
この手の映画を見たまま述べてはいかん.
内に秘めたテーマを考察せねば.

1)「正義には悪が必要」論

『ダーク・ナイト』から続くテーマ.
リドラーがなんとなく語ってたけど,今回はそれがメインではない.

2)「復讐は何も生まない」論

勧善懲悪で終わらせない,またザコ敵であろうとも殺さないヒーロー描写が最近増えてきた.
ただ,その究極の描写をついこないだ『ノー・ウェイ・ホーム』でやっちまったしなぁ...しかも,あんな形で.

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』を観た~そう来たか!

3)「親の罪は子が背負うべきか」論

日本だと,逆の「(犯罪者は)親の育て方が悪かった」説が幅を効かせている.
欧米の価値観では親と子は別人格なので,加害者(特に成人の場合)の親はあまり責められないと聞くけど,実際はどうなのだろう?

では,この映画で示された子の責任は?
父のトーマス・ウェインは家族の名誉を守るため,意図的ではないが”殺人”を依頼してしまった.
事情を知る(父親代わりの)執事は仕方がなかったと言う.
それを聞いても,ブルースは,やはり父の行いを許せない.
その償いがクライマックスの救助シーンにつながっていく.
自分の“これからの”行為によって,父の罪が消えるわけではないが,“これからの”人々は救える,いや救わなければならない.
そのために,今日もオレはこの街,ゴッサムシティを守る!的な.

4)「無敵の人たちの犯罪」論

リドラーのキャラ設定が正にそう.
バットマンをひたすら妬む.
そしてネットで焚き付けられた人々が,混乱に乗じて殺戮を開始する.

新コロ禍の日本でも,この「無敵の人」(たいてい中高年男性)による凶悪犯罪が複数発生した.
今後,この理不尽な犯罪は増えていくと思われる.

バットマン映画はどれも,このテーマを内包しているように思う.
それは「バットマン(ヒーロー)が何をしようが,欲望の街ゴッサムシティは変わらない」と.

ただし,今回の映画では「リニューアル」という言葉が何度も出てきた.
小手先の政策や改革ではなく,もっと根本的な変化が必要と訴えているのか,それは徐々に進行中のホワイト革命のことなのだろうか?

確かにわかりやすい“悪人”は自然と淘汰されるかもしれない.
でも...その代わりに失うものは何?

つーことで『THE BATMAN』.
全然スカッとはしませんが,とりあえず秀逸なカメラワークを堪能したい人にはオススメです.