2021/12/15 Wed
良いも悪いも.
専門学校の教員になって20年近くになる.
その間,講義の際に欠かさず行っていることがある.
それは講義終了後に参加した生徒全員に質問紙(「Q&A」と呼ぶ)を書かせること.
講義内容でも,世相でも,人生相談などなんでも良いと伝えている.
出席票の代わりとし「あくまで感想ではなく質問」とだけ念押し.
匿名ではないので,質問内容を通じて各生徒の理解度や日本語能力を推し量ることができる.
まぁ,最大の効用はKazchari自身が学生からの疑問に答えるために,改めて自分の知識を確認できるという点.
これが大きい.
実はこの質問紙方式には元ネタがある.
それは作家,森博嗣が大学助教授時代に行っていた方法である.
生徒とのやり取りは書籍にもなっている.
臨機応答・変問自在 ―森助教授vs理系大学生― (集英社新書)
テーマはズバリ「人は,どう答えるかではなく,何を問うかで評価される」.
さすがに質問紙の内容で成績はつけてないけどな.
ちなみにこの本,森博嗣の著作の中でも1,2を争う面白さである.
争っている他の1位? 水柿助教授シリーズかな.
ちなみに学生ではなく質問を一般募集したパート2は,作者自身が言う通り”キレがなくなって”イマイチ.
で,Kazchariもこれまで数千の質問に答えてきたわけだが,中には「この学生,人の話を全く聞いてないな」とモロにわかる質問もある.
例えば「先生はお正月におもちを何個食べましたか?」など.
これはこれで微笑まし...くないわ! ちゃんと勉強しろ.
もちろん,ほとんどは”ちゃんとした”専門的な質問である.
たまに,Kazchariの雑談をベースにした鋭い質問が紛れている.
先日の講義では,
「新コロ禍における生活様式の変化で良かったと思うことがある.飲食業者の困窮問題はさておき,儀礼上やむを得なく参加していた歓迎会,忘年会などの各種宴会がなくなったのがありがたい」という話をした.
そう,Kazchariは昔から宴会が嫌いなのだ.
理由はいくつかあるが,まずまともな会話ができないのが気に食わない.
酔って思考がまとまらない,さらに周囲もうるさいので大声で怒鳴り合い(極端では?).
もし「Kazchari先生を飲み会に誘いたい」という奇特な生徒がいるなら,山奥のキャンプ場にしてくれと言い渡してある.
それに,これが最大の理由なのだが,宴会終了後の大量の残飯を見たくないのだ.
もうひたすらもったいない.
そのうちバチがあたるで...という話をした.
その日の学生からの質問にこう書かれてあった.
Q:宴会の話で気になったことなのですが,なぜ宴会では食べ物を残す人が多いのでしょうか.頼んだものは食べきるものと思っているのと,宴会にまだ参加した事がないので疑問に思いました.(原文一部改変)
これに対するKazchariの回答.
A:貴重な質問です.通常の宴会において個人の好物や食欲は反映されません.それは“食事を楽しむ”のではなく“社交”が主たる目的であるためです.年齢の割に宴会未経験なのは,いわゆる“コロナ世代”の特徴の1つと,将来的に言われるかもしれませんね.
この生徒は2年前に入学してきた.
つまり新コロ流行の真っ只中だったために,入学式もなし,各種歓迎会なし.
さらに当初はリモート授業が続き,人間関係の構築訓練も中途半端.
社交デビューの機会がほとんどないまま,今日まで過ごしてきた.
質問にあるように,気の合う友達同士での食事会や飲み会ではなく,乗り気であろうがなかろうが”参加しなければならない”宴会に参加する機会が,新コロのおかげで奪われてしまった.
こうした場で,酒やタバコを覚えたり(風潮的にはアレだが),上司との話し方,(固い職場だと)席次だとか幹事の仕事を学んでいったりなどの,”大人の世界”を知るきっかけになっていたことは否めない.
もちろん,こんな義務的参加の経験・有無に関わらず,勝手に社交デビューする者もいるだろう.
だが,それは少数派.
これって結婚に似ている.
過去最高“生涯未婚率”が右肩上がりのワケ……都道府県ランキングを発表、独身研究家に聞く 「価値観の変化」「結婚のハードル」は?
昔は誰もが結婚できた.
適齢期に独身でいれば誰かが世話してくれた.
今は自由恋愛史上主義.
恋愛力の無いものは結婚できない...(by橘玲)
自由ほど残酷なモノはない.
実際,うつ病の方に「自由にしていいよ」「あなたの好きなように」というのは禁忌.
無理やりセッティングされる経験は必要.
これも意外に悪くない...と気づく機会すら失われつつあるのだろう.
「コロナ世代」というレッテル張りはしたくない.
ただ年代差以上に,異なる価値観を持つ世代が増えていくのが加速するのだろうな,と思う.
どうでもいいけど,今や『エヴァンゲリオン』も『マトリックス』も観たことがないという生徒が多数派...講義内容にからめたネタが全然通じない.