2020/3/19 Thu
超危険な職業.
Amazon Prime Videoにて『オンリー・ザ・ブレイブ』(2017)を鑑賞.あまりメジャーな映画ではないと思われるので(Kazchariの私見),あらすじをコピペ.
堕落した日々を過ごしていたブレンダンは、恋人が妊娠したことをきっかけに森林消防団へ入隊。地獄のような訓練の毎日を過ごしながらも、仲間との信頼を築き、彼らの支えの中で少しずつ成長していく。しかしそんな彼らを待ち受けていたのは、山を丸ごと飲み込むような巨大山火事だった―。
これだけ読むと,よくあるハリウッド映画の王道パターン.「はいはい,森林火災版の『バック・ドラフト』ね」と思いきや,全然違った.
以下,ネタバレ.
あの鎮火後のシーンでは,ほとんどの方が言葉を失うはず.「えっ,助かったんとちゃうの? 全員死亡? それって物語として...あれ,そういや実話って最初に出てた.がーん」と.
映画鑑賞の楽しみの一つに未知の職業体験があると思う.この映画の「森林消防隊」もまさにそれ.北米やオーストラリアの広大な森林に起こる大規模火災に立ち向かう専門職.日本にはなじみがない,というか必要ない職業.
この映画の中でも通常の建物火災消防士とは別種扱いになっている.また,森林火災の消火方法も初めて知ることができた.ヘリやセスナによる空中から散水も行われるが,木々そのものが燃料になるので,とんでもない速さで襲ってくる火の延焼進路を見定め,溝を掘り,木を伐り,意図的に燃やして延焼を食い止める.火で火を制するのだ.つまり,経験と知識と行動力が重視される超危険な職業ゆえ,「ホットショット」と呼ばれる一流クラスになるには厳しい認定審査を受ける必要がある.
最新の映画らしく炎のCGは素晴らしい.何の違和感もない.言い換えれば映像面における斬新さはない.
また,上映時間が2時間14分と長い上に,淡々と物語は進む.あらすじにある「地獄のような訓練」ってランニングと腕立て?
この手の映画の場合,誤解と諍いを乗り越えての友情(あることはあるが薄い)とか,火事に巻き込まれそうな家族を間一髪で助けたりとか,どっちの命を救うか問題や自己犠牲シーンなどがたいてい盛り込まれるが,それらもない.
代わりにあるのが「家庭と仕事の両立」的な一般人にもよくある悩み.各登場人物の掘り下げが浅く,20名の隊員のうち,主人公のブレンダンと隊長,副長以外,誰が誰やらよくわからない.見た目みんなマッチョやし.
もちろん「ヤーネルヒル火災」がクライマックスなのだが,そこにたどり着くまでの火災シーンは中途半端.古木の前の人間ピラミッド撮影シーンのためのシナリオ感が強い.ようするに災害パニック映画としては物足りなさが残る.
しかし,「実話」という重みの前には,これらの点は全て気にならなくなる.
そしてラスト.生存者1名のアナウンスに希望を託す家族.そこに現れたブレンダンを見た時の絶望感,一方のブレンダンも生き残ってしまった居たたまれなさに崩れ落ちる.ここは役者の演技力も相まってグッとくるシーンである.エンディングロールでは,ブレンダンおよび亡くなった消防士本人の映像が流れる.みな若い.
ヒーローとは,どこか壊れていないと,なれないものなのだろうか.単純に街と人を守りたいだけで,この様な危険な仕事に就けるものなのだろうか.どうして選んだのかも気になる.街や人を助けたいからやっている,その一言に尽きるのか…
アメリカ人と言えば,ヒーロー願望が強い国民性で知られている.そこで,気になったのがアメリカの職業別死亡率.
消防士,ランキング上位かと思いきや,なんとトップ10外でした.
そらそうか.まず出動件数が多くない.また,危険に対すること自体が仕事なので,事前準備・装備・訓練は完璧ということなのだろう.日本でも消防士って圧倒的に待ち時間が多い職業(Kazchariのいとこは元消防士で,料理と訓練のコンボでガタイがどんどんデカくなった)やしな.
興味深いのは,日本や韓国の場合,肉体労働者よりも管理専門職の方が死亡率が高いらしい.原因はがんと自殺とか...
2019年末のオーストラリア森林火災でも森林消防士が25人亡くなっている.
人間は脆く,フィクションのような超人はいない.常に死と隣り合わせ.それを最後に突きつけるリアル・ヒーロー映画でした.つーことで『オンリー・ザ・ブレイブ』オススメです.