2023/3/21 Tue
人間の自由のために
少し出遅れたが,先日『シン・仮面ライダー』を観てきた.
脚本担当だった『シン・ウルトラマン』も含めると,シン・シリーズ四作目となる.
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を観た
思った以上にウルトラマン~『シン・ウルトラマン』を観た
さて,その感想は...
※ 以下,ネタバレです.
まず感じるのは,これまでで一番クセ強め.
たぶん興行成績は苦労するやろなぁ.
例によって,公式サイトや個人レビュー動画の類を一切シャットアウトしたまま書いているので,勘違いや気づかなかった点が多々あるかと思われるがご容赦.
オリジナルの『仮面ライダー』は1971年放送開始.
Kazchariは当時4歳.
なんとなーく観ていた記憶あり.
熱中しだしたのは『V3』(1973)以降かな.
当時の特撮では『人造人間キカイダー』(1972)が一番好きだった.
ただ,どちらかと言えば『ウルトラマン』に代表される巨大ヒーロー派.
有名な話だが,初代『仮面ライダー』は当初怪奇路線だった.
話も暗いし,怪人は気持ち悪いし,人がバシバシ死ぬ.
何よりライダーが地味.
路線変更して明るめの作風へ.
それに,なんつっても主役の藤岡弘さんの不慮の事故による撮影不可からの,2号ライダー誕生が大きい.
一大ブームとなり,ライダーキックを真似る子供への注意喚起がなされるなど社会現象化した.
その後,定期的なライダー番組は昭和と平成の狭間である『RX』(1988)で一旦終了.
そして,2000年の『クウガ』で復活後は「平成/令和ライダー」シリーズとして,今も続く人気コンテンツとなっている.
ちなみにKazchariは『クウガ』を至高として,次に『W』が好きだ.
他の作品も一通り視聴してきたが,令和2作目の『セイバー』(2020)以降はちょっと...
最近はスーパー戦隊がおもしろ過ぎる(※個人の感想です).
『ドンブラザーズ』から『キングオージャー』へ
さて,今回の『シン』はPG12,つまり「小さいお子様は親のフォロー付きで鑑賞下さい」基準.
ようするに平成令和のお祭りライダー映画と異なり,完全に大きいお友達がターゲット.
「大きいお友達用」と言えば,最近こんな◯◯が配信されていた.
『仮面ライダーBLACK SUN』,最終回まで観た~生きることが好きさ(えっ?)
今回の『シン』は,こいつの1億倍は面白かった.
やはりリメイク物は,監督や製作者が,オリジナルに対してどれくらい愛と情熱があるかが如実に現れる.
(庵野)カントクは自分の結婚式にて,燕尾服の代わりにライダースーツを着るぐらいの筋金入りだ.
監督不行届 (FEEL COMICS)
子供の頃にドはまりしていた特撮を後で思い出したり,人に説明する際,脳内補完され,オリジナルを美化,シャープ化してしまうことがよくある.
『シン』は脳内補完されたイメージと,オリジナルの古いままの両方が“奇妙に”混ざり合っている.
ようするに変な映画(ホメ言葉).
『電人ザボーガー』と並...並びません.
電人ザボーガー
その顕著な例が主人公のライダースーツ(防護服)である.
大きめの頭部(のぞき穴付き),余計な装飾一切なし,だらっとした姿勢...
単体では,決してかっこよくない.
まずはヘルメット...ではなくマスク.
ベルトが風を受けると,目が血走り顔に血管が浮き出る,どこぞの『テラフォーマーズ』っぽくなる.マスクはそれを隠すためでもある.
それに,かぶると生存本能=闘争本能が高まるとか.
他にもワイヤレス通信でアップデートできたり,映像を保存したりと実に便利なガジェット.
かぶると,口元のいわゆるクラッシャーが閉じるが,その状態でしゃべるもんやからモゴモゴと声が通りにくくなる(リアルだ).
ショッカーライダーとの戦いでマシンガンをゼロ距離でバカスカ撃ち込まれている時,本郷が「このままではマスクが保たない!」とか焦っていたが,元々首元がむき出しでは?(そこは言わない約束).
スーツも,昔のジャージ生地ではなく革っぽいが,当時のもっさり感が絶妙に再現されている.
事前情報で「あれは服ではなく,肉体が変化したもの」説も流れていたが,ちゃんと脱げます.
それどころか,長時間着たままだと匂うらしい.
生命維持は体内にある「プラーナ」という謎エネルギーを用いているので食事不要らしいが,汗はかくということ?
ルリ子に指摘され,下着姿になるシーンあり.
最近のライダー映画で客演した際の,胸のコンバーターが妙に浮いているスーツとは明らかに違う.
正直,今風アレンジしたスーツだと『仮面ライダー THE FIRST』(2005)の完成度が非常に高い.
仮面ライダーTHE FIRST & THE NEXT Blu-ray
カントクにとっては,怪人はともかく,ライダーに関してはオリジナルの姿がベストなのだろう.
一方で,怪人の造形はシャープで今風(サソリは除く).
作中,オリジナルの〇〇男,◯◯女という呼び名は,◯◯オーグに変更.
主な登場怪人は6体.
クモオーグ:ライダー第一話伝統のモチーフ.変に紳士的.素顔出ず.「そうか,空中戦だとこちらが不利に!」ドカーン!
コウモリオーグ:変身解除しないのか,できないのか,ずっとコウモリ顔のまま.確かにコウモリは様々なウイルスを媒介する.帽子に耳の切れ目が入っているがおしゃれ.
サソリオーグ:これは...まさかのあの人!? シークレットな大物キャラ.スゴイ役どころ.網タイツ戦闘員など,古き良き東映特撮のキャラやな.
ハチオーグ:『キル・ビル』? それにアジトの形状がマギ・システムにしか見えない.そこは投下されるエヴァ弐号機!っぽい構図.
カメレオン/カマキリオーグ:まさかの3種混合.『北斗の拳』の雑魚キャラにいそうな立ち位置.ルリ子より先に本郷を殺すべきでは?
チョウオーグ:ルリ子の兄のイチロー.「肉体と魂を切り離して,魂だけを平穏の地に閉じ込める」というショッカーの理想を実現しようとしている人類補完計画野郎.
ラストの変身で顔が半分に割れた! ⇒ こ,これはイチローだけにキカイダー01?
そこから口吻らしいものが! ⇒ イナズマン?
ベルトにタイフーンが2つ! ⇒ まさかのV3!
と,かなり楽しませてくれたキャラ.
だってさぁ,ロボット刑事Kまでいるんやから,石森キャラつながりで,絶対にそう思うやん.
残念なことにダブルライダーとの最終決戦がイマイチで,そこがこの映画の減点ポイント.
もう少しカタルシスが欲しかったなぁ.
カメカマを除き,こいつらがショッカーの上級幹部らしい.
ナレーションでは最後にコブラオーグの名前も出てた.
ルリ子の説明によると,緑川博士は「この世界で最も成功した生命体はヒトと昆虫.だからかけ合わせた」らしいけど,それ以外のヤツらが多くないか?
さて,次にキャラ造形.
主人公の本郷猛.
頭脳明晰・スポーツ万能...だけどコミュ症.
演技が素晴らしく,常に震えながら話す.
棒読みっつーか,感情が全くこもっていない話し方.
そう,まるで『風立ちぬ』の時のカントクっぽい.
ぶったまげたのがPG12の理由と思われる冒頭の戦闘員との戦い.
とんでもない力を持った怪物が,生身の人間を殴るとどうなるのか,をリアルに再現.
文字通り”砕く”のだ.
もちろん,「トォー!」だとか「ライダァーキィーック!」などとは叫ばない.
ハチオーグに操られた民衆が迫ってきても,なぜかキャンプ用具を丁寧に片付けてから逃げる几帳面さ.
なぜか収納したコンテナは放置.
本郷はバイク好き...らしいが,尺の問題なのか,その描写は薄い.
サイクロン号の整備をしつつ話しかける,いやタンクをなでてうっとりする場面は欲しい.バイク乗りなら当然の行動.
逆に2号ライダーこと一文字隼人は陽キャ(だけど変人は変人).
「お見せしよう」の名台詞もちゃんと言ってくれる.
「クリアになった」が口癖.
一度は断ったチョウオーグとの最終決戦だが,本郷のピンチに駆けつける.お前はハン・ソロか.
一文字隼人は,本郷亡き後も「BATTA-ORG 01+02」,つまり水色マスクと白2本ラインの新一号+新サイクロンで今後もショッカーと戦い続けるのだッ!
ちょっと邦画の悪い癖で,心情を語るセリフ過多かな.
ラストシーンでの橋上走行.センターライン上ではなく,左側を走ってほしい(なんとなく).
さて,問題の緑川ルリ子である.
「私,用意周到なんで」が口癖.某外科医?
カントクはこういうキャラ付け好きやな(髪型含め).
「彼女は安野モヨコだ」とか,誰かが言ったら,また炎上しそう.
思えば,本編冒頭のカーチェイスの時から変.
相当高い崖の上から,バイクごと転落し地面に叩きつけられてもなぜか平気.
この時点で,てっきり改造済み(テントウムシオーグとか)かと思ったけど違ってた.
彼女も感情表現がおかしい.
母親はいないっつーか,緑川博士の精子を使って人工子宮で生まれたらしい.
本人曰く「私はショッカーのための電算処理人間」.
あれ? この設定って...某コミックのファティマやん!
兄(イチロー)を慕う理由はよくわからん.
最初のセーフティハウスに向かう際,オート操縦の無人サイクロン号がついてくるシーンがある.
まるで犬のようだ...って,実はこの映画,テーマは洗脳と自由.
持続可能な平和を願うショッカーの首領(?)イチローは人類補完計画を企む.
そのため,コウモリやハチオーグに人々を洗脳する計略を指示.
つまり個ではく統一された集団意志・行動を基本とした社会を目指している.
そこには苦しみはない=幸福だそうな.
カントク,相変わらずこの世界観好きやな.
一方,仮面ライダーは世界平和を目指しているわけではない.
仮面ライダー・本郷猛は改造人間である.
彼を改造したショッカーは世界制覇を企む悪の秘密結社である.
仮面ライダーは人間の自由の為にショッカーと戦うのだ!
この超有名な前口上にあるように,平和ではなく自由を目指す.
この映画における,るり子のやり口はエグイ.
赤いマフラーを巻くシーンから始まって,アジトでの添い寝ツンデレ,一文字の開放,死に際のセリフ,遺言ビデオ...
本郷にしても一文字にしても「自由でなければならない」という逆洗脳を受ける...っつーか,まるでマキマさん? 支配の悪魔やん.
まぁ,現代っつーか,リベラル化した社会って「自己責任において自由でいなければならない」という洗脳下にあるかもしれんけどな.
あっそうか,この構図って,使徒(個体で完結)と人(共同体でなければ生きられない)のジレンマと同じやね.
カントクが,いつものテーマを,自分の大好きな仮面ライダーを使って,やりたい放題したことがものすごく伝わる映画でした.
エンドロールのメドレー.
『ロンリー仮面ライダー』がたまらん.
オススメです.
おっと,忘れてた.
これまた事前公開情報になかった立花さんと滝さん...なんだかファミリー化してる?
ここまで実績を作ると,もはや誰も止められない.
次の「シン」は何か?
一番作ってほしいのは『シン・ナウシカ』!