2020/3/9 Mon
指先が震える.
Amazon Prime Videoで映画『ヒトラーの忘れもの』(2016 デンマーク・独)を観た.
『Uボート』に続いての戦争映画.
マイナーゆえ,Amazonからあらすじを引用.
1945年、ナチス・ドイツによる占領から解放されたデンマーク。ドイツ軍が海岸線に埋めた無数の地雷を除去するため、捕虜のドイツ兵たちが駆り出された。彼らは地雷を扱った経験がほとんどない。彼らを監督するデンマーク軍のラスムスン軍曹は、全員があどけない少年であることに驚くが、容赦ない暴力と罵声を浴びせる。
少年たちは祖国に帰る日を夢見て苛酷な任務に取り組むが、飢えや体調不良に苦しみ、地雷の暴発によってひとりまたひとりと命を落としていく。そんな様子を見て、ナチを激しく憎んでいたラスムスンも、彼らにその罪を償わせることに疑問を抱くようになる。
やがてラスムスンは、残された任務をやり遂げて帰郷を願う少年たちの切なる思いを叶えてやろうと胸に誓うようになる。しかしその先には思いがけない新たな苦難が待ち受けていた…(Amazon 商品紹介より引用)
(以下,少々ネタバレ)
“例によってクソな”邦題からは,どこかハートフルなドラマを想像させるが真逆.
原題はずばり『LAND OF MINE』.
『Uボート』のラストシーンほどの救い難さはないものの,不条理極まりない悲劇が展開される.
劇中のセリフはドイツ語,デンマーク語,連合軍は英語.
これだけで1億点進呈.
戦争映画はやはり言語が重要.
ハリウッド製ベトナム戦争映画のほとんどは,北ベト兵やベトコン同士が英語で会話していてひっくり返った.
史実によると,戦後の地雷撤去作業に従事した捕虜2000人のうち,約半数が死傷したとのこと.
この映画では10代後半の少年がこの超危険な作業に従事させられている.
以前,アカデミー賞作品に『ハートロッカー』というアメリカ映画があった.
これは湾岸戦争時の爆弾物処理班の話だったが,ヘルメットやチョッキなど完全防備で作業にあたる.
何よりも知識・技術のある処理専門兵が主人公だ.
しかし,この『ヒトラーの忘れもの』はどうよ.
連れてこられた浜辺の地雷総数と埋没地点を記した地図はあるものの(正確ではない),区域ごとに人海戦術の手作業,つまり匍匐前進しながら,針金でつついて地雷を発見.砂を掘り返して(円型地雷の場合)蓋を開けて信管を抜く.
この作業を1時間6個のペースで行えという無茶ぶり.
場所によっては地雷が2個接続されており,信管を外してさぁ安心と持ち上げた途端...という描写もある.
この場合,地雷2個分の火力なので遺体の痕跡も残らない
映画では最終的に補充要員も含め,少年14名中4名しか生き残らない.
撤去が終わりようやくドイツに帰れると思いきや...という展開.
地雷と言えば,殺傷能力をわざと抑えて,四肢欠損程度にとどめ,受傷者の治療や看護に敵国のリソースを割けさせ,戦意を衰退させる目的もあると聞いたことがある.
一方,二次大戦中の運用目的は異なるようだ.
劇中で語られるのは,連合軍の海岸上陸阻止.
つまり明らかに破壊力の高いものが使われている.
テーマとしては戦争の残酷さ,およびデンマーク人軍曹の気づきと成長なのだろう.
しかし,一鑑賞者としては,なんといっても地雷撤去作業の緊張感が印象的.
登場人物と同様,観ている方も段々慣れてくる(最初の実弾訓練シーンが一番緊張する).
そこでドカーンが来るのだ.
【良かった点】
・ド派手な戦闘シーンは皆無だが,戦争の理不尽さは確実に伝わる
・ヨーロッパ映画らしい抑えた気味の演出.双子弟の自殺シーンは美しさすらある.
・グロが最低限(それでもキツい人にはキツイ)
【ここはちょっとな】
・軍曹と少年兵との交流展開が少々ベタ.
・14人は多すぎて誰が誰やら判別困難.それに掘り下げが薄く感情移入しにくい.
・長期の強制労働生活にしては衣服がきれい,病的に痩せてもいない.
現代日本に住んでいる限り地雷とは無関係だが,Kazchariはブログで以前書いたように,1993年のカンボジアにて地雷原の中で立ち往生したことがある.
あのリアルな現場にいてさえも能天気だった自分に今でも驚く.
規模の大小はあれど,戦争やらテロは毎日世界のどこかで起きている.
まるでそれを別次元のように,自分には直接関係しない事象のように感じている.
しかし,コロナのせいで,ここ数週間,一気に”災厄”とのシンクロ率が上がった気がする.
今のこの平和は意外にも脆い.
自分は幸いにもいい時代を生きてきたと思うが,娘と息子のこれからはどうなる?
空腹のあまりネズミの糞を食べながら,手作業で地雷撤去をする日が来るかもしれない.
たまに観る戦争映画は,未来の悪い方への想像を掻き立て,どう振る舞うべきかを考えさせてくれる.