『運び屋』を観た~晩年の生き様

2022/4/15 Fri

I could buy anything, but I couldn’t buy time.

作る映画がことごとく名作の監督はそうそういない.
だが,クリント・イーストウッドは正にその一人.
「男はこうあるべき」を徹底して,かつ客観視点で描く(もちろんアメリカ的だが).

今回はAmazon Prime Videoにて,その劇場公開最新作『運び屋(原題:THE MULE)』(2018 米国)を観た.

運び屋(字幕版)

イーストウッド演じるアール・ストーンは80代の男。家族と別れ、孤独で金もない彼に、事業差し押さえの危機が迫っていた。そんな時に、ある仕事が舞い込む。ただ車を運転すればいいだけの訳もない話だ。しかしアールが引き受けてしまったのは、実はメキシコの麻薬カルテルの“運び屋”だった。たとえ金銭的な問題は解決しても、そうとは知らずに犯してしまった過去の過ちが、アールに重くのしかかってくる。捜査当局やカルテルの手が伸びてくる中、はたして自らの過ちを正す時間は彼に残されているのか。

原題の「mule」はラバのこと.
ラバとはロバとウマの交雑種.
もっさりしたイメージの動物なので,ヨボヨボの高齢主人公を揶揄しているのかと思いきや,米スラングで「麻薬の運び屋」を意味するらしい.まんまやないかい.

以下,ネタバレ.

実際の出来事に着想を得たというストーリーは単純.

で,観終えた後の感想...これ自伝やな.
しかも遺作っぽい.
もちろん,イーストウッドが”運び屋”をやっていたわけではないが,劇中のセリフ一つ一つが自らに言い聞かせているようにしか思えない.

天下の大スターである.
アールのように,家族よりも仕事や社交が中心,言い換えれば自分優先で生きてきたことが想像できる.

調べるまで知らなかったのだが,イーストウッドは人生で2回の結婚.
(なぜか)6人の女性との間に,全部で8人の子どもがいるらしい.なんじゃそら?
ちなみに,この映画の娘役はその内の一人だそうな.

例によってZwiftしながら観ていたところ,一部で大爆笑してしまい,階下で寝ているヨメさんからクレーム.
何が面白いってアールの暴言の数々(「ニグロ」「タコス野郎」など)でしょう.
昨今の過剰なポリコレクソ喰らえで,アカデミー賞にノミネートされなかったのは当然.

暴言も暴言やけど,アメリカ人(メキシコ人も?)って,ホンマ年長者に敬意を払わない.アジア人との違いを感じる.

麻薬組織のチンピラも,アールをバカにしたり脅したりとひどい扱い.
その脅しに全く動じない朝鮮戦争帰りの90歳.カッコよい.
かつてのマグナムぶっ放してた頃の,眩しそうな表情で睨みつける迫力は健在.
それでも下っ端の連中とは徐々に打ち解け(?),その功績から組織のボスの家に招待される.

「運び屋」業で得た大金で,豪華なピックアップトラックや似合わない金のブレスレッドを買い,農園を取り戻し,帰還軍人施設に寄付,若い女と遊ぶ.

それでも最大の心残りは家族関係の修復.
クライマックスで様々な偶然が重なり,完全に落とし前をつけることができた.
その奇跡の物語でもある.

アクションでもサスペンス映画でも,ましてや「ナーメテーター」ではないので,麻薬組織を壊滅したりしません.
少しだけ若者の更生を促すシーンもあるが,『グラン・トリノ』のように自らを犠牲にして云々もありません.
けじめとして刑務所に収監されて終わる.
そして...そこで再び農作業をするシーンで終わる.

人生の晩年に訪れた男の夢.
冒頭に上げたセリフが刺さる.

「なんでも買えるけど,時間は買えない」

いや,ホンマ,50を越えてこの台詞の突き刺さること.
これまでの人生,決して後悔はしてないけどな.
それにイーストウッド基準だと,Kazchariにもまだ35年ほど残されている.
この台詞,忘れないで生きていこう.

この映画のもう一つの名言はこれ.

Everything works out better than expected. ⇒ なんでも案外うまくいく.

そう,心配し過ぎも,焦り過ぎもよくない.
全てはバランス.
いい映画でした.

うん? なにげに前回観たサメ映画と共通点が多いな(どこが?).
メキシコ関連で舞台で有名人の実子の出演か.

『海底47m 古代マヤの死の迷宮』を観た~いろいろトッピング

レビューこそ書いていないが,同じく大傑作だった『ベイビー・ドライバー』とも似ている(どこが?).
こちらは強盗組織の「逃し屋」天才ドライバーが主人公.

ベイビー・ドライバー (字幕版)

ニックネームの「ベイビー」が,これほど似合う主人公はいない.